宇都宮地方裁判所足利支部 昭和46年(ワ)93号 判決 1972年6月20日
原告 太田勝美
右訴訟代理人弁護士 戸恒庫三
被告 石川暢男
<ほか一名>
右被告両名訴訟代理人弁護士 奥山剛
同 沢田三知夫
同 伊達昭
同 伊達利知
同 溝呂木商太郎
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して、金五八万六、六一九円およびこれに対する昭和四六年九月一二日から完済に至るまで、年五分の金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その一を被告らの各負担とする。
四 この判決は、第一項にかぎり、かりに執行することができる。
事実
第一当事者の申立
一 原告
(1) 被告らは、原告に対し、連帯して、金一〇五万三、〇六四円およびこれに対する昭和四六年九月一二日から完済に至るまで、年五分の金員を支払え。
(2) 訴訟費用被告らの負担。
(3) 仮執行宣言。
二 被告ら
(1) 請求棄却。
(2) 訴訟費用原告の負担。
第二請求原因
一 事故の発生
原告は、昭和四五年二月一〇日午後九時一〇分頃自動二輪車に乗車して、足利市大正町地内の南北に通じる県道を南進し、該県道と東西に通じる道路とが十字に交わる同町八六五番地の交差点内において、右東西路を東進して来た被告増田咏子運転の普通乗用自動車と衝突し、これにより、右大腿骨々折および頭部挫傷を負った。
二 帰責原因
本件事故は、被告増田の過失により発生した。すなわち、同被告の走行した東西路の前記交差点入口には、一時停止の標識があるのに、同被告がこれを無視して、一時停止をすることなく、交差点に進入したため、原告車と出合頭に衝突した。ゆえに、同被告は、原告に対し、不法行為者として、民法第七〇九条により、損害賠償責任がある。
被告石川は、被告増田の実兄で、被告増田運転の加害車輛の所有者であり、これを同被告に使用貸ししていたのであるから、原告に対し、自賠法第三条の運行供用者として、損害賠償責任がある。
三 原告の損害
(1) 治療費等合計金一一万三、〇六〇円
原告は、前記傷害により、事故当日である昭和四五年二月一〇日から同年五月二日まで、足利赤十字病院に入院し、いったん退院した後、同年九月二八日から同年一〇月八日までふたたび同病院に入院して、治療を受けた。この間の費用は、(イ)ないし(ニ)の合計金一一万三、〇六〇円である。
(イ) 入院治療費金三万七四〇円
(ロ) 付添看護費金五万三、四八〇円
(ハ) 入院雑費(毛布ズボン代を含む) 金二万八、三四〇円
(ニ) 松葉杖 金五〇〇円
(2) 休業補償費金一一万三、〇六四円
原告は、事故当時佐野市所在の大島メリヤス株式会社に勤務し(そのかたわら、栃木県立足利高校定時制に通学している。)、月額平均金二万八、二六六円の給料を得ていたが、本件事故による負傷のため、事故当日の昭和四五年二月一〇日から四ヶ月間欠勤し、四ヶ月分の給料金一一万三、〇六四円を支給されず、これと同額の損害を被った。
(3) 慰藉料金八〇万円
原告は前記傷害により、前記のとおり入院し、退院後現在に至るまで、右大腿部がしびれ、時々激痛を覚え、階段を十数段登ると、脚が動かなくなる。以上の点から、慰藉料として、金八〇万円を相当と思料する。
(4) 弁護士費用金一四万円
着手金六万円および成功報酬金八万円の合計である。
四 弁済充当
原告は、被告らから、前記三の(1)の(イ)ないし(ニ)の合計金一一万三、〇六〇円の支払を受けたから、これを控除する。
五 結論
よって、原告は、被告らに対し、前記三の(2)ないし(4)の合計金一〇五万三、〇六四円およびこれに対する昭和四六年九月一二日(送達のおそい被告増田に対する訴状送達の日の翌日)から完済に至るまで、民法所定の年五分の遅延損害金の連帯支払を求める。
第三請求原因に対する認否
一 請求原因一の事実中、原告の傷害の部位、程度を除くその余の事実は認める。右傷害の点は争う。
二 請求原因二の事実は認める。しかし、本件事故は、原告主張の如き被告増田の過失だけでなく、原告にも、交差点進入に際し徐行義務違反の過失があり、これが競合して発生したのであって、原告において徐行義務を尽していれば、本件事故の発生を避け得たか、発生しても、軽微な負傷に止まっていたものである。
三 請求原因三の事実中、(1)の治療費が金一一万三、〇六〇円であることは認めるが、その余の事実は争う。
四 請求原因四の事実は認める。
第四抗弁
一 過失相殺の抗弁
本件事故は、前記第三の二で述べたとおり、原告にも徐行義務違反の過失があったから、損害賠償額の算定につき、斟酌されるべきである。
二 弁済の抗弁
被告らは、原告に対し、その損害中、原告主張の第二の三の(1)の(イ)ないし(ニ)につき、合計金一一万三、〇六〇円を支払ったから、控除されるべきである。
三 相殺の抗弁
被告らは、原告に対し、つぎの如き(1)および(2)の債権を有するから、これを自働債権とし、原告の本件損害賠償請求債権を受働債権として、本訴(昭和四七年五月四日第五回口頭弁論期日)において、対当額で相殺するむねの意思表示をする。
(1) 本件事故で、原告車と衝突した被告増田は、その反動で、さらに交差点東南角付近にあった一時停止の標識に衝突してこれを破損させ、被告らは、訴外株式会社石沢建設塗機部にその修理代金四万五、三六〇円を支弁した。これは、原告にも本件事故につき過失がある以上、共同不法行為者として、原告もまた負担すべきであるところ、被告らにおいて、これを支払ったから、これにより、被告らは、原告に対し、右四万五、三六〇円の求償債権を有する。
(2) 被告らは、原告の通学する栃木県立足利高校に昭和四四年三月分の授業料等金六六〇円を立て替えて支払ったから、右金六六〇円の立替金債権を有する。
第五抗弁に対する認否
一 抗弁一の事実は争う。
二 抗弁二の事実は認める。第二の四で述べた如く、弁済充当し、本訴において、これを控除してある。
三 抗弁三の事実中、(1)は争う。(2)は認める。
第六証拠関係≪省略≫
理由
請求原因一の事実(事故の発生)について
請求原因一の事実については、原告の傷害の部位、程度を除くその余の事実については、本件各当事者間に争いがなく、右傷害の点は、≪証拠省略≫により、原告主張どおりであることが認められる。
請求原因二の事実(帰責原因)について
請求原因二の事実については、本件各当事者間に争いがない。なお、≪証拠省略≫によると、本件交差点は信号機等による交通整理が行われておらず、かつ原告の進行方向からは、左右の見透しが良好でないのであるから、原告は交差点に進入するに際し徐行すべき義務があるというべきところ、これを怠り、時速約四〇キロメートルで進入したことが認められ、原告にも右の過失があり、本件事故は原告と被告増田双方の過失によるものと認められる。ゆえに、被告らは、原告に対し、連帯して、損害賠償義務がある。
請求原因三の事実(原告の損害)について
≪証拠省略≫によると、原告が請求原因三の(1)で主張するとおり、三ヶ月余の間入院したことが認められ、そして、その間の治療費等合計金一一万三、〇六〇円であることについては、本件各当事者間に争いがない。
請求原因三の(2)の休業補償費については、≪証拠省略≫により、原告主張どおり、金一一万三、〇六四円であることが認められる。
請求原因三の(3)の慰藉料については、前認定のとおり、原告が前後二回にわたり、合わせて三ヶ月余入院し、また、≪証拠省略≫によると、一回目の退院と二回目の入院の中間の期間に二回ほど通院したこと、通院は病院が遠いので二回に止められたことおよび受傷後一年間位は、右脚に痛みとしびれを感じたが、現在では、雨降りのときなど、若干の痛みとしびれを感ずる程度にまで回復したことが認められ、以上の事実に照らして、金六五万円を相当と認める。
請求原因三の(4)の弁護士費用については、着手金、成功報酬を合わせて、金一〇万円をもって相当と認める。
以上原告の損害は、(1)治療費等合計金一一万三、〇六〇円、(2)休業補償費金一一万三、〇六四円、(3)慰藉料金六五万円、(4)弁護士費用一〇万円の合計金九七万六、一二四円である。
抗弁について
抗弁一(過失相殺)について
前告定のとおり、本件事故については、原告と被告増田両者の過失によるものであり、その割合は、原告三、被告増田七と認める。よって、原告の損害は、その三割を控除すべきものである(ただし、弁護士費用は、過失相殺の対象から除外すべきものとする。)。ゆえに、前記原告の損害金九七万六、一二四円から弁護士費用金一〇万円を控除した金八七万六、一二四円から、その三割を控除すると、金六一万三、二八七円となる。この抗弁は理由がある。
抗弁二(弁済の抗弁)について
抗弁二の金一一万三、〇六〇円の授受については、本件各当事者間に争いがないので、これが控除されるべきである。ゆえに、前記過失相殺した残金六一万三、二八七円に弁護士費用金一〇万円を加算した金七一万三、二八七円から、右金一一万三、〇六〇円を控除すると、金六〇万二二七円となる。この抗弁は理由がある。
抗弁三の(1)(相殺の抗弁)について
本件の如き、被告らの債務が不法行為によって生じたものであるときは、原則として、債務者は、債権者(原告)に対する反対債権をもって、相殺により、対抗できないが(民法第五〇九条)、例外として、双方の債権が同一の不法行為により生じた場合には、相互に相殺し得ると解するのを相当とする。本件において、被告らが抗弁三の(1)で主張する自働債権は、被告増田が原告と衝突した反動で、さらに一時停止の標識に衝突してこれを破損し、その修理代を第三者に支弁したことによって、共同不法行為者たる原告に対して取得した求償債権というのであるから、右債権は、原告に対する不法行為債権自体ではないが、本件事故に直接基因する債権といえるから、例外として、相殺を許容しても、右法条の精神にもとるとはいえない。ただ、原被告は、第三者に対する関係では共同不法行為者であるが、内部的には、その過失の割合によって負担部分を決すべきものである。≪証拠省略≫によると、被告らが昭和四五年二月訴外株式会社石沢建設塗機部に、被告増田が原告と衝突した反動で、一時停止の標識を破損し、その修理代として金四万五、三六〇円を支払ったことが認められるから、前記原告の過失三割に相当する金一万三、六〇八円は原告が負担すべきであるから、右の限度で被告らは原告に対し求償債権を有する筋合である。そして、被告らが本訴(昭和四七年五月四日第五回口頭弁論期日)で相殺の意思表示をしたことは、本件記録上明らかであるから、原告の損害金六〇万二二七円は、右金一万三六〇八円の限度で対当額で相殺されるというべきである。ゆえに、残金は、金五八万六、六一九円となる。この抗弁は、右の限度で理由がある。
抗弁三の(2)(相殺の抗弁)について
右抗弁によって、被告が主張する自働債権は、被告が原告の通学する高校の授業料立替金債権であるところ、右は本件事故に直接基因するものとはいえないから、前段判示の理由から、民法第五〇九条により、相殺し得ないというべきである。この抗弁は主張自体理由がない。
以上の理由により、結局被告らは、原告に対し、連帯して、金五八万六、六一九円およびこれに対する昭和四六年九月一二日(送達のおそい被告増田に対する訴状送達の日の翌日)か完済に至るまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払義務があり、原告の請求は、右の限度で理由があるから認容するが、その余は理由がないから棄却すべきものとする。
よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九三条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 菅本宣太郎)